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< 黒い生きものたちのはなし >他3編【prose】

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< 黒い生きものたちのはなし >

大きな黒いの と
小さな黒いの が
よりそっている。

つやつやした毛並みの。
ふわふわした毛並みの。

小さなのが大きなのの顔を舐める。
ぺろぺろぺろぺろ。
ぺろぺろぺろぺろ。
ひねもす。ひねもす。ぺろぺろぺろ。

穏やかで優しい金色の目をした、大きなの。
ピンクの小さな舌の、小さなの。

ふと、小さなのが動きを止める。
もっと舐めてよ。と大きなのが顔を寄せる。
小さなのは文句も言わず、ぺろぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろ。
一心に。わき目もふらず。それだけが世界で大事な一つのことのように。

やがて、小さなのはころんと眠ってしまう。
眠いの?と覗きこんだ金色の目も、小さなのにくっついて眠る。
よりそった黒いかたまりは一つのいきもの、
幸いのかたち。そしてまた信頼のかたち。

 

 

 

<  トリケラトプス、etc. >

トリケラトプス、
プトレマイオス、
ヘルメス・トリスメギストス、
プテラノドン。

ベテルギウス、
ブラキオサウルス、
ブロントサウルス、
ブランデンブルク門。

アンプロンプテュ、
アルストロメリア、
アンドロギュノス、
アンケセナーメン。

寿限無寿限無、五劫のすりきれず。

 

 

 

< 美しいもの >【prose】

何かを美しいと思えるのは、自分の中に何か美しいものがあって、それが共鳴するからだと。
――そうだといい、と願っている。

 

 

< さえずり >【prose】

鳥が啼く。
楽しい楽しい楽しい、と。
初夏の朝、よく晴れた日の草原の風のなか。

鳥が啼く。
淋しい淋しい淋しい、と。
雨の日の暗い森、途切れそうな鳥の声は降り続く雨音に消されて。

 

 

< 十一月 >【prose】

一月は白。
一年の始まりに最初に差す、光に輝く雪の純白。

十二月は赤と緑。
飾られた金と銀のオーナメントがぱちぱちと燃える火の音にふるえ。
赤々と燃える暖炉、深くつやつやと光る樅の木。

六月は浅葱色。
まだ降り続く雨の色を映した、限りなくグレーに近い水浅葱。
こぬか雨が止み、ふと顔をのぞかせた空。

 

五月は緑。
山はとりどりの緑を豪奢に輝かせ、そこにある命を知らせる。
生きている、生きているよと叫びながら葉を開く木々。

二月はピンクと銀色。
チョコレートの箱にかけられた銀色のリボン。
まだ寒い季節の中でキラキラと華やかな一角。

九月は茜色。
夕暮れの西の空。紫の雲の向こうにある紅を含んだ赤。
庭を飛びはじめたトンボの色。

 

三月は黄色。
春一番にもみくちゃにされる水仙。風に負けずにがんばっている。
光を浴びて輝くその鮮やかなレモンイエロー。

四月はペールブルー。
ほのかに空は晴れて、青みの強い水色の空に薄紅の花びらが舞う。
光が花びらを透かす。淡い影が花の中で躍る。

七月は群青。
澄みわたった夜空の色。宵の明星が輝き始める。
細い三日月、美女の眉。

八月は深緑。
烈しく差す光を跳ね返して木々の葉は暗く輝く。勁さには勁さを。
葉の下の闇。黒い空間には夏の間に溜めた力がうずくまっている。

十月は真紅。
黄色と真紅の競演。命を尽くした葉が地に落ちる。

 

――何もないのは、十一月。
花も紅葉も。枯野には白茶けた薄が残るだけ。
空は銀鼠、風は白。

 

 

 

 

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